受付カウンターにたどり着く前から「オフィスデザイン」は始まっている
それでは、トムソン・ロイター・ジャパンの新しいオフィスを見ていこう。
港区赤坂5丁目に新しく誕生した再開発複合施設、赤坂サカスの中にある赤坂Bizタワーは、地下鉄赤坂駅に直結する交通の便の良さに加え、高級ホテルを思わせる木材を活かした内装が印象的だ。街の賑わいが感じられる1階のエントランスからエレベーターに乗ってオフィスに向かうと、その間にも、訪問者はすでに「トムソン・ロイター」のブランドに触れることになる。
「ビルのオーナーであるTBSが情報番組用のモニターを2台エレベーター内に設置することになっていたのですが、その内の一台にインフォポイントというトムソン・ロイターのニュースプロダクトを入れて最新のビジネスニュースなどを放映することにしました。これは、トムソン・ロイター事業の中核である金融情報サービスを強く印象つけるブランディング戦略の一環です」(古川氏)
さらに1階エントランスのカフェ「スターバックス」にも大型モニターを設置した。
「神谷町時代にもビルの中にモニターを置きたいと考えていたのですが、建物の条件などから不可能でした。そういう点でも、このビルはユーザーにとっていろいろなことに挑戦できる、使いやすいオフィスだと思いますね」(古川氏)
そして30階に着いて受付に向かうと、そこからは小野氏が「工夫に工夫を重ねた」と自負する斬新な空間が現れてくる。
「受付まわりはオープンでウェルカムなイメージを強調するために開口部を広くし、入口にエレベーターホール側に向けた角度を付けるなどしています。さらにここからガラス張りの会議室やセミナールームなどを通して窓の外の風景が見えるようにしているのも、明るい印象を与えているはずです」(小野氏)
30階は、ほぼ半分が来客などを迎えるオープンスペースに充てられている。
「セミナールームは開放可能なガラスパーテーションで仕切ってありますから、50人から200人まで、さまざまな人数に対応したセミナーやイベントが開けるようになっています」(小野氏)
これらの空間は、ロイターにとって、まさに経営の力になる施設だ。
「多くの部屋を用意できたことで、これまで週に1回だったカスタマートレーニングを2回以上に増やせます。これだけでもカスタマーサービスのレベルは2倍になったといえるのです」(古川氏)
もちろん、工夫されたデザインによる効果も加えれば、前のオフィスとは比べものにならないほどのプラス面があるはずだ。
「自由に飲みものをとれるカフェや、談笑できるラウンジなど、あえてオフィスらしくないものを配置することで、リラックスしながら交流できるようにしました。最近では著名人を招いた講演なども行い、単に情報を提供するだけでなく、参加者による交流の輪が広がるなど、期待以上の効果をあげていますね」(古川氏)
移動の要となる内階段を中心に配置される社内コミュニケーションを活性化する仕掛け
一方、社内スタッフが使う執務室についても、「交流」はデザイン上の重要なキーワードになっている。
「赤坂Bizタワーはフロア内の3カ所に吹き抜けをつくれる構造が用意されていました。そこで、そのビルの特性を活かし、2フロアで分断されないように29階と30階をつなぐ内階段を設けました」(大貫氏)
そして内階段による移動が頻繁にされることを期待し、そこをレイアウト上の「核」にした。
「お茶が飲めるカフェ、備品のデポジットであるキオスク、書籍や雑誌を並べたライブラリーなど、人の集まるコーナーをその近くに配置しました。これにより、自然な交流が生まれるようにしたのです」(小野氏)
さらに人の動線が途切れないように、そこからビルのコア側に会議室などを並べていく。しかも、それぞれの部屋に特徴をもたせた。
「会議室は開放式で4人までのオープン、ガラス張りですが音が漏れないようにした6人用のクローズ、そして短時間の打合せ専用の60ミニッツの3種類を用意しました。バラエティを増やすことで気分展開になるし、目的に合わせてオフィス内のスペースを使い分けてほしかったのです」(小野氏)
ちなみに「60ミニッツ」にはメーカーに特注した60分用の砂時計があるほか、テーブルの高さが変えられ、立ったままの打合せにも対応する。
「そのほかにも、29階は全体の4分の1が自由に打ち合わせや共同作業のできるコミュニケーションスペースに充てられています。テーブルが並んでいるだけなので大人数のイベントにも使え、社内セミナーなどにも活用されるなど、人気の高いコーナーになっていますね」(小野氏)

そんなスペースのフレキシビリティを高めるために、小野氏はテーブルまで特注した。
「2本の脚だけにスケートボードの車輪を付けました。そのおかげで、普通の状態では動かないものの、片方だけを軽く持ちあげれば移動ができます」(小野氏)
スケートボード用の車輪は質の高いベアリングを使っているので、従来の家具用のものよりもスムーズに動かせるという。
「既製品の中から使う家具を選ぶのではなく、オフィスに発生したニーズに合わせて最適な家具を発明してしまう。これもオフィスデザインの仕事の一つなのです」(小野氏)
フリーアドレスは帰属意識の低下につながる席数を減らさないフリースタイルなら効果的
会議室やコミュニケーションスペースなどに加え、もう一つ、小野氏が「隠れ打合せコーナー」として設置したのが、背の低いロッカーだ。
「コア側の会議室と窓側のデスクスペースの間に個人用のロッカーを並べたのですが、そのままだと上にダンボール箱などを積まれてしまう心配があるので、斜めの覆いを付け、なおかつ上部をホワイトボードにすることで、メモ書きや連絡用に使えるようにしました」(小野氏)
ロッカーの高さは人の胸より少し低いくらい。このため、カウンター感覚で自由に話ができるのだが、そこには小野氏らしい細かい工夫も盛り込まれている。
「ロッカーの上部は全面を斜めにせず、両端に5センチほどの平らな部分を残しました。飲みものをちょっと置けるようにして、人が集まりやすくしたのです」(小野氏)
デスクスペースについては、人数分の席が用意されているものの、同じ部門内であればどこに座ってもいい「フリースタイル」を採用した。
「フリーアドレスという言葉は『自分の座るところがなくなる』と心配するスタッフが多いため、禁句になっています。しかし完全固定席では働き方が制限されてしまうことから、自由席という意味でフリースタイルにしました」(古川氏)
この制度の導入にあたっても、フリースタイルのメリットを最大限に発揮できるように運用上のルールを徹底した。
「せっかく自由席にしているのに、自分の場所を決められては困るので、個人用のワゴンは置かず、私物はすべてロッカーにしまうようにしました」(小野氏)
各デスクに「個人の色」が着かないように、ごみ箱も排除した。
「これは分別を完全に行うという目的のためでもあるのですが、1人が使うものはデスク周りに一切置かないことで、自由席であることを徹底しています」(古川氏)
ごみ箱がデスク下にないことで、スタッフは定期的にごみの集積コーナーがあるカフェなどに集まるので、そこでも交流が活発になるというメリットもある。
「今回のプロジェクトでは事前に多くのスタッフと話し合いを行い、『こんなオフィスにしたい』という意識を共有していきました。ごみ箱をなくすことにしたのも、そんな中で出てきたルールです。スタッフにしてみれば、自分たちの意見が反映されたオフィスだから、そのルールを守ろうとする。その結果、オフィスはいつまでも、初期の性能を維持できるのです」(小野氏)
オフィスにはめずらしい「曲面」の多用が、余裕を感じられる空間につながっていく

トムソン・ロイター・ジャパンのオフィスを訪れた人が最初に気づくのは、さまざまなところに曲面が活かされたデザインの生み出す独特の雰囲気だろう。セミナールームや会議室を区切るパーテーション、カフェのカウンター、テーブルやデスク、天井に開け開けられた吹き抜けの穴など、通常なら直線や平面だけで構成されるアイテムの多くが曲線や曲面になっている。
「オフィスのデザインというと、とにかくスペースの有効利用ばかりを考え、直線的なデザインしか許されません。しかし、曲面を活かした空間はそこにいる人の心が安まる効果があり、ぜひ一度、試してみたかったのです」(小野氏)
デザインについては明豊ファシリティワークスに一任していた古川氏は、そのアイデアに賛成した。
「図面を見せてもらったところ、曲面を多用したからといって、それほど無駄なスペースが生じるわけではないことがわかっていましたので、反対はしませんでした。むしろ、余裕があって居心地がいい空間になったのではないでしょうか」
古川氏によると、オフィスにおいて無駄なスペースが生じるのは、「デザインよりも時間」だという。
「神谷町のオフィスは約25年にわたって使い続けていたため、誰も管理していない書類が部屋の片隅に積まれているなどして、無駄が多かったのです。このため、赤坂に移転してスペースはそれほど広くなっていないのに、ゆったりしたレイアウトが実現できましたね」

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