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株式会社学習研究社

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ビルの規模、町との調和、会社のイメージ  環境への配慮、予算がデザイン上の条件に

新本社の建設が決まり、中島氏たちがすぐに始めたのは、企画とデザインのコンペだった。「充分な検討期間があっただけに、かなり詳細な募集要項を作成し、提案書・デザイン案・見積書の3点を出してもらったのです。これまで複数のゼネコンとお付き合いがあったため、まったく平等の条件でお願いしたところ、4社が参加してくれました」(中島氏)

そのとき提示した要項は以下のようなものだった。
「収容人数は約1,800人ですが、それ以外にも1日あたりの来訪者数や駐車台数なども正確に調査し、それを満たすようにしてもらいました」(中島氏)

さらに「街に調和する建物であること」「学研のイメージにふさわしいデザインであること」などの付帯条件も加えられている。また重要なテーマである予算と環境対策については、次のような言葉で説明した。
「環境には究めて配慮した建物にしてほしいとお願いし、CASBEE(建築物総合環境性能評価システム)の計算書も必ず付けてもらいました。また予算に関しては具体的な数字を示すのではなく、『かなり重要なファクターになります』と口頭で伝えることで、真意はわかってもらえたはずです(笑)」(中島氏)

その結果、4社から提出された案はどれもレベルが高く、甲乙をつけるのは簡単ではなかったという。
「条件などをかなり具体的に伝えたせいか、どれも力作で、評価は人によってかなりバラバラでしたね。建築のプロではありませんので相当悩みました。最終的には、コンサルティングで協力いただいた専門家の意見をもとに清水建設のプランに決めさせていただいたのです」(中島氏)

清水建設が提案したのは、全面ガラス張りのデザインだった。「時代の流れでどのデザインもガラスを多用していましたが、その中でも最もガラスによる開口面の広いものに決まりました。結果として外光が多く入る明るいビルになり、開放的なオフィスになったと思っています」(中島氏)

編集制作などの専門的な業務部門であってもユニバーサルプランのオフィスで対応が可能

建設プロジェクトが本格的に始まると同時に進められていったのが、内部のオフィスづくりだ。この段階からプロジェクトに係わったのが新社屋運用室長の荒木静正氏である。

「最初はいろいろ悩みましたが、最終的にはどのフロアも統一したユニバーサルプランのオフィスにすることにしました。今後の組織変動などを考えると、結局、これが一番いいのです」
悩んだ原因は、出版物の編集制作という特殊な業務を行う部門が多いことだった。
「編集者は担当した雑誌や書籍をデータで管理していますが、それでも校正見本を個人個人で持ち、改訂などの作業に対応していました。この保管場所をどうするのか、簡単には結論は出ませんでしたね」(荒木氏)

ファシリティマネジメントの手法では、個人の持つ書類の量をA4サイズに換算した厚みファイルメーター(fm)で表し、この数字でスペースの管理を行うのが一般的だ。荒木氏もその方法を考えるが、「校正紙はさまざまなサイズがあるうえ紙でない企画見本もあって、簡単には計算できない」という事情にぶつかる。
「移転前の従業員1人あたりの占有面積は約12m2でした。新本社に全員を収容するには8m2程度まで縮小する必要があり、どこかで決断を下す しかなかったのです」(荒木氏)

そこで、事前の調査として各従業員に書類を分類してもらった。
「常に近くになくてはいけない書類、なくてはならないが別の場所に保管していい書類、建物の外に保管しておけばいい書類に分類してもらったところ、編集者であってもデスク周りにそれほど多くのスペースが必要ないとわかったのです。したがって、ユニバーサルプランのデスク配置にし、『ワゴン1台に入らない書類は指定された保管場所に置くか、廃棄すること』を社内にお願いしました。この結果、移転では思ったほどトラブルはなかったですね」(荒木氏)

社員食堂を多目的スペースだと考えれば多様な業務や人数増を可能にする施設に

それでは、学研の新本社ビルについて詳しく見ていこう。
五反田駅からは約300mで、交通の利便性はかなりいい。周囲に大日本印刷やポーラのビルもあり、オフィスエリアを形成している。
建物は地上24階、地下2階で、各フロアのコア部分を除いた面積は約800m2である。
「平均すると、ワンフロアに約120名の従業員を収容するようなレイアウトにしてあります。地下はスタジオやメール室と駐車場、1~3階はエントランスとショールームや打ち合わせスペース、13階に社員食堂、それ以外に2フロアの会議室、1フロアの役員室を設けました」(荒木氏)

先ほど説明したように、執務フロアはほぼ共通のユニバーサルプランで、1人あたり1400mm×700mmのデスク(テーブル)が並ぶスタイルだが、全体にゆったりしたイメージを受ける。
「部門によりますが、デスクの数はかなり余裕を持って設置しています。これは、人数的な増減をレイアウト変更なく吸収するためです」(荒木氏)

 学研では社員のほか、様々なスタッフも数多く働いている。その人数は仕事の進行状況によっても変わってくるため、レイアウト上もある程度の「バッファ」は必要だという。
「編集部ではフリーランスのスタッフも多く、基本的に自宅で作業して打ち合わせのときだけ来られる方や、仕事が続く間はほぼ毎日来る方など、働き方はさまざまです。したがって、デスクや打ち合わせテーブルをシェアしてもらったりしながら、収容できるスペースは充分に確保できるようにしました」(荒木氏)

 13階の社員食堂も、その機能の一端を担っている。
「社員食堂を設けるかどうかでは、かなりの議論をしました。旧本社のように住宅地にあるわけではなく、周辺に飲食店も多数あるので必要ないのでは……との声も多かったのですが、従業員へのサービスも重要だと思い、途中で設置を決めたのです。そのおかげで基本設計の変更までしなければなりませんでしたが、結果としてこの決定は正解だったと思いますね」(荒木氏)

ランチタイム以外、喫茶や打ち合わせなどに使える食堂は、1日中、人の行き来が絶えず、利用率はかなり高い。また取材や撮影、大人数によるイベントなどにも対応できる。
「仕事のスタイルが多様化してきている現在、多目的スペースはオフィスに不可欠のものです。結局、働き方はワーカー自身が決めるのですから、設計段階であまり限定しないほうがいいのかもしれません」(荒木氏)

社員も評価したコミュニケーション促進効果 「統合」は効率化とコストダウンの決め手に

最後に、昨年10月、新本社への移転から2カ月目に学研が行った全社 員アンケートの結果を報告しておこう。  まず、新社屋による移転の効果評価では、「通勤・外出の利便性」「社内コミュニケーション」「食堂の便利さ・快適さ」といった項目が高いポイントになっている。また総合評価では80%以上の社員が「良くなった」と答えている。
「立地が変わったので交通の利便性が向上したのは当然ですが、社内コミュニケーションの活性化が評価されたのはうれしいですね」(荒木氏)
「オフィス内のデザインでは、パーテーションなどの高さを110cm以下にして、フロア全体を見わたせるようにしました。この手法は確実に効果が上がり、『以前より他の社員と話をするようになった』と喜んでいる人は大勢います」(荒木氏)

また社員食堂については、「ほぼ毎日利用している」が30.2%、「たまに利用している」を加えると77.2%の社員が便利な存在だと感じているようで、都心に比べてリーズナブルな飲食店が多い五反田エリアという事情を考えると、評価は相当に高いといえる。

 一方、設備等の改善を考える上での重点ポイントについて、社員側は「業務の効率化」や「快適性」を上位にあげている。
「これらは新本社移転で大幅に向上した部分ですが、それでも更なる改善を感じている社員も多いということだと考えています。プロジェクトが当初考えた目的は一応成功したと判断していますが、オフィスづくりに終わりはありません。これからも重点ポイントを中心に、改善のための努力を続けていきたいですね。設備する側と施設を使う立場が一層融合していくことで社員も最新設備に慣れ、一層効率的な施設活用が図られると思っています」(荒木氏)

今回のプロジェクトは、経営的に見ても大きなメリットがあった。
「オフィスが4カ所に分散していたころは、その間の移動のコストがかなりかかっていました。また上池台の本社は駅から離れていたため、通勤費に含まれるバス代もそれなりの金額になっていたのです。五反田の移転によってこれらのコストはゼロになったのですから、経営上の効果は大きいと思いますね」(荒木氏)

そして、部門間の壁を越えた交流が時間差なしにできるようになった環境は、まさにお金に換算できない効果を生むものと期待されている。
「これからの企業は事業の融合領域で新しい価値を創造していくといった挑戦が求められます。新本社の建設は会社にとって大きな出費ですが、次時代の成長に向けた投資をしたのだと思えば、必ずその成果は現れると信じています」(中島氏)

学研新本社の環境への取り組み(一部)
  • 1.換気冷房に外気を利用
    春や秋の換気冷房には空調機から取り入れた外気を室内に供給できるシステムになっている。空気はその温度差で階段を通って1階から屋上へ流れ、排出される。
  • 2.除湿に空調の温水を利用(夏季)
    除湿はいったん冷やした空気を利用し、湿度を下げてから再び暖めて室温に戻す方式が一般的だ。学研の新社屋では熱交換器の廃熱でできた温水を利用するシステムを採用し省エネ化を実現している。
  • 3.照明に太陽光を利用
    壁一面に広がる面に高機能ブラインドを設置。あらかじめインプットされている季節ごと、時間ごとの入射太陽光角度に合わせて羽の傾きが自動調整され、天井の反射光などを利用しながらオフィスの奥まで光を導いていく。またセンサーで室内照度を感知し、自動的に照明を調整し、室内不在感知により自動消灯もされる。