機能的であると同時に落ち着ける公共スペースは来客やビジネスパートナーとの接点を広げてくれる
それでは日本オラクルの新本社オフィスについて詳しく見ていこう。

待ち合いスペースの、時間とともに流れが変化する滝。
銀座線外苑前駅につながるエントランスからエスカレーターで直行できる2階はビルの共有部分にあたるのだが、オフィスフロア全館を使用している日本オラクルの総合受付となっている。北側に開けた大きなガラス面からは秩父宮ラグビー場や神宮外苑全域が見通せ、外光による明るい印象もあってホテルのロビーのようだ。
2階からはセキュリティゲートを通ってエレベーターで各階に行くのだが、社外の人の立ち入りは原則として12、13、14階のパブリックスペースに限られている。
「セキュリティレベルの向上は今回のオフィス移転の最重要課題の一つでした。書類をほぼ完全にペーパーレス化して情報漏洩の危険性を無くすとともに、人の動線を整理し、お客様やパートナーとの打ち合せ、セミナー、プロモーションイベントなどはすべてこの3フロアで行うようにしています」(山家氏)
ゲストとのミーティングのフロアとなっているのが14階だ。毎週水曜日
には、今や日本オラクルのイメージキャラクターにもなっている社員犬のウェ
ンディ(オールド・イングリッシュ・シープドッグ)が愛らしい仕草で訪問者を
迎えてくれる。
「社員犬は彼女で3代目になります。“出勤”時間は短いのですが、お客様の中には会うのを楽しみにしていらっしゃる方もたくさんいますので、これからも元気に活躍してほしいですね」(山家氏)
ウェンディのインパクトは強いが、それ以外にもこのフロアには来訪者が快適に過ごせるような工夫がされている。たとえば時間とともに流れ方が変化する滝や、「和」の雰囲気を演出する竹の植え込み、自慢の眺望が楽しめる大きなガラス窓、そして電源と高速無線LANを完備した会議室やラウンジなど、来客やパートナーが多様な目的で利用できるスペースを用意した。
「待ち合いスペースもくつろいでいただけるスペースでなければなりません。このためカラーリングも落ち着いた木と日本の伝統色を採用するなど、空間の演出には徹底的にこだわりました」(川端氏)

「和」を演出する待ち合いスペース。
そして13階にはセミナーやプロモーションに使える複数のセミナールーム、12階にはトレーニングキャンパス青山と呼ばれる全19室の研修用の部屋が設置されている。13階のセミナールームをすべて使うと、延べ330人が同時にセミナーやセッションを受講できるほどだ。
「以前は施設が分散していて不便だったのですが、本社に集約できたことで運営管理の手間やコストは大幅に削減できました。事業所間の移動だけで30分はかかっていましたから、時間短縮の効果もある。セミナーやトレーニングは私たちの製品の価値を高める重要なイベントですから、それを本社でする意味は大きいのです」(瀬谷氏)
「場所にとらわれない働き方」を実現するため「仕事ができる場所」を多様化していく試みへ
最も多くのフロアを占める執務スペースについて紹介する前に、日本オラクル独自の勤務形態について説明しておこう
オラクルでは新しいワークスタイルである「Work@Everywhere」への挑戦を続けている。これは、製品である様々なITインフラを活用し、場所にとらわれない働き方を実現していこうという試みだ。
「仕事は機密情報保護に配慮していれば、どこで行っても構いません。例えば個人でできる業務であれば、ネットワークを利用して午前中は自宅で作業をし、会議のために午後から出勤というワークスタイルでもいいのです」(瀬谷氏)
もちろん、その背景には独自の人事制度がある。オラクルの場合は、「私の上司も海外におり、ネットワークでつながっているだけですから日頃の働きぶりまで監督できません。グローバル企業ゆえ、かねてよりリモート環境における人事評価制度が確立していると同時に成果主義が根づいているのです」(瀬谷氏)
というように、成果による評価制度が確立しているからこそ場所を限定しない働き方が可能なようだ。そして今回の移転を機会に、「Work@Everywhere」を推進する新しいオフィスデザインの採用に踏み切っている。
「まず席はフリーアドレスとし、自由にどこにでも座っていいことにしました。基本となる部門ごとのホームベースとなるエリアがあり、各フロア共通の窓際の集中作業用のコンセントレーションエリア、オープンミーティングエリア、複数規模の会議室、リフレッシュエリアをスタンダードで配置しています。通常業務ではそのホームベースとなるエリア内で仕事をすることが多いのですが、組織横断型のプロジェクトや個人で完結する集中作業のときは、どこに座っても構いません」(川端氏)
もっとも、そんな日本オラクルでも以前のオフィスでは固定席だったため、フリーアドレス化には不満の声もあったという。
「誰でも自分の席が無くなることに抵抗感はあるものですが、私たちのフリーアドレスは省スペースを目指すことよりも、個人がその日の業務に最適な働く場所を自ら選んで仕事をするインフラを整備して、コラボレーション、コミュニケーションを行いながらプロフェッショナルとして業務を行ってもらうことを目指しています。実際に使い始めてみると社員の皆さんはいろいろな場所を選んで仕事をされています。」(川端氏)

明るい雰囲気の11階のカフェコーナー。
実際、デスクだけでなくコンセントレーションエリアやリフレッシュエリア、そ
して昼食や喫茶にも利用できるカフェなど、見方を変えれば“自分の席”
がいくつも用意されていることになる。
「移転前のオフィスでは、増えていくデスクを収容するために次々と打ち合せコーナーが潰され、社員は自分の席以外には行けない状況でした。それに比べれば今は自由ですし、また違う部門の社員が混ざりあうことでお互いの業務内容にも関心が持てるようになった。今後、新オフィスのコンセプトであるコミュニケーションとコラボレーションがさらに促進されていけばうれしいですね」(瀬谷氏)
ペーパーレス化でデスクは簡素化し周囲の多目的スペースとの併用を促す
執務スペースの工夫でもう一つ特筆すべきは、新しいデスクのデザインだ。「ホームベース型のデスクを岡村製作所と清水建設と共同で新規開発しました。標準のデスクモジュールを並べて対向島型にしたり、デルタ型、円形にしたりと、さまざまな配置が可能なので、組織変更や業務内容に合わせたオフィスレイアウトが簡単に実現できます」(川端氏)
基本的にはデスクの配置は固定式とし、人が用途に合わせて席を選ぶ方式だが、組織改編や新規プロジェクトのスタートなどによって新たな配置が必要になればデスクを移動させて対応する。
「通常のオフィス用デスクで固定席にしていたときは、組織変更や異動のたびに備品の発注や工事に伴う手配が大変でした。しかしこのデスクなら簡単に移動させてレイアウト変更が可能ですから、手間やコストは飛躍的に軽減されます」(川端氏)
ちなみに横幅は1400mmで、それまで使っていたデスクが1600mmだったため若干のサイズダウンになるが、この点で苦情はあまりないという。
「新本社への移転に先んじて、何度にもわたりペーパーレス化への取り組みを行ってきました。その結果、個人が保有する書類はほとんどなくなり、その分、デスクが小さくなっても作業性はあまり変わらなくなったのです」(瀬谷氏)
ペーパーレス化は徹底しており、個人が持つのは50cmファイルメーター分のロッカーだけだが、「入っているのは仕掛かり中のプロジェクトの書類とノートパソコンぐらい」(川端氏)とのこと。紙資料の保管は適宜見直し、電子化して保管する。ペーパーレス化を促進する上で、不必要な資料の量を認識してもらう必要がある。ゴミ箱はデスク周りには置かず、紙資料はフロアに1ヵ所のユーティリティコーナーと、給湯室の分別ゴミ用と情報漏洩防止用の廃棄書類ボックスに分別して廃棄できるようにすることで、今まで気軽に足元に捨てていた紙ゴミを、共用のゴミ箱まで各自で持っていくことで、量が認識しやすくなった。
このようにデスクが並ぶスペースはかなり無駄を省いているが、その周囲には会議室や打ち合せコーナー、リフレッシュコーナーなどが効率的に配置されており、全体としてはかなりゆったりしたイメージを受ける。実際、誰もが仕事の内容に合わせて場所を移動しながら働いている。
「会議室も様々な大きさのものを用意しました。中には2人用というのもあるのですが、集中できる環境で、会議室に常設のモニターを見ながらの資料作成などで利用率はかなり高いですね」(川端氏)
また、予約なしで使える打ち合せコーナーにもモニターを設置し、ペーパーレスでかつ多目的に使えるコラボレーションのためのインフラを整備している。
「会議室に集まらなくても、その場の雰囲気で打ち合せが始められるので、こういうスペースは便利ですね。アイデアが出たときに即座に集まる事で、通常の会議より早く結論が出るので、スペースも時間も有効に活用できるように思います」(山家氏)
人にも環境にも優しいオフィスを目指し新しい試みにも積極的に挑戦していく姿勢
その他、日本オラクルの新オフィスで注目すべきポイントをいくつか紹介しておこう。
最高ランクの環境性能を実現
環境・省エネルギー対策は積極的に進め、CASBEE(建築物総合環境性能評価システム)で最高クラスのSランクを取得した。主な取り組みは以下の通り。
- ・屋上緑化と側面緑化による空調エネルギー削減とヒートアイランド化現象の軽減。
- ・熱線吸収ガラスを用いたLow-Eペアガラスを採用し、日射・熱所得を削減し、空調エネルギーを削減。
- ・照明センサーにより昼光利用が可能な場合には照明器具の出力を低減。 人感センサーにより共有部の照明を点滅。
- ・地域冷暖房システムの利用により地域単位でCO2排出量を削減。
花火も楽しめる茶室と日本庭園
随所に和のテイストを採り入れたオラクル青山センターの目玉の一つが最上階に設けられた茶室と日本庭園だが、ここは毎年夏に開かれる神宮外苑花火大会のときには絶好のビューポイントになるため、音を楽しめるように、そのときだけ開放する小窓を設けた。
ユニバーサルデザインの導入
様々な人が利用できるように段差のない床などは全面的に採用しているが、そのほか、企業オフィスとしての新たな試みとして、病気や事故などで消化管あるいは尿管が損なわれた人でも排泄がしやすいオストメイトも設置した。
新オフィスの評価については、近々、従業員へのアンケートなどを行う予定だという。
「今までのオフィスは不満があっても簡単には変えられませんでしたが、新オフィスはデスク配置などもフレキシブルに変更していけるので、今後、さまざまなニーズに対応していけるはずです。そういう意味でも、かなり理想に近い形に近づけたのではないでしょうか」(瀬谷氏)

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