「機能美の追究」というコンセプトから会社の個性に合ったデザインが生まれる
一ツ橋SIビルへの入居を最終的に決断したのが2008年末。そこから新オフィスの構築作業が始まる。旧入居ビルとの契約により2009年の4月中には移転をしなければならず、スケジュール的にはかなり厳しい条件だった。
「それでも満足のいくオフィスを構築するためには妥協したくなかったので、デザイン会社数社にお話をお聞きしました。その結果、デザインだけでなくコンセプトワークからお手伝いしていただけるゲンスラーさんにお願いすることになったのです」(山縣氏)
最初に話を聞いたゲンスラーの岩田雅弘氏は準備期間の短さに驚いたものの、オプトという企業を知るにつれ、プロジェクトの成功を確信したという。
「インターネットという日進月歩の世界で成功してきただけあって、オプトさんはとにかく決断が早い。例えば会議も30分間と決めて始めれば絶対に延長せず、しかもドアの外には次の会議のメンバーが待っているほどなのです。こんなスピード感のある組織ですから、意見交換して結論が出たあとは、『専門分野はスペシャリストに任せる』と、余計な口出しをしたり、予定に無い変更を要求したりはしません。私自身、論理的に仕事を進めたいタイプなので一緒に仕事をしていてやりやすく、強力な信頼関係が築けましたね」
そしてこのとき、ゲンスラーが提案した新オフィスのコンセプトが「機能美」だった。説明するのは、以前、株式会社WOWOWの新オフィス紹介記事(2009年3月号)でも登場していただいた天野大地氏だ。
「ゲンスラーは多くの外資系企業をクライアントに持つことから豪華なオフィスばかりつくっていると思われがちですが、これは完全な誤解です。私たちが目指しているのは、会社ごとに異なる機能美の追究であって、余計な装飾をオフィスに持ち込もうとしているわけではありません。そういう視点で今回の新オフィスについて考えたとき、この会社は従業員の年齢が若く、とにかく元気一杯なのですから、彼らが思いっきり活躍するためには、頻繁に交流できるシンプルで自由な空間をつくることが機能美につながると思いました」
それは、言葉にすれば「無地のイメージ」だという。
「急成長に伴い組織もどんどん変化していくのでしょうから、フレキシブルなオフィスであることは重要です。しかしそれだからこそ、場所ごとの意味づけはしっかりしておかなければ、ぐちゃぐちゃになってしまいます。そこで、『このスペースはこう使って欲しい』というメッセージを伝えるための工夫をいくつも採り入れたのです」(天野氏)
その一つが、“包(パオ)”と呼ばれる新しい仕切り用のツールだ。設計・製作に携わったのがデザイナーの黒川梨江氏である。
「発想の原点はモンゴルの遊牧民が使ってきたテント式の移動住居です。金属の枠と布地で構成された球体の仕切りを置くことで、オフィス内に独立した空間をつくり、コピーコーナーや出会いのスペースに利用しました。この方法だと工事が不要になるため、短期間に設置でき、移動も簡単で、もちろん予算も抑えられます。さらに、あまりオフィスらしくないアイテムをあえて置くことで、個性的な空間を実現できるというメリットもあるのです」
また、オフィス内の位置を自然に意識できるようにフロアごとにイメージカラーを設定したほか、場所ごとのアドレスを天井にプリントしている。
「オフィスの天井はこれまで設備用にしか使われていないスペースでした。しかしオフィス内のアドレスをどこに付けるか考えたとき、邪魔にならず、かつ効果的なのがここなのです」(黒川氏)
天井へのプリントは工事費用もそれほどかからないうえ、原状回復も簡単なので、今後、他の企業にも積極的に提案していきたいという。
「今回のプロジェクトは期間的にも予算的にも余裕のない厳しいものでした。だからこそ、いろいろ工夫する必要があり、そこから新しいアイデアが生まれてきたのです。個人的には『良いオフィスとは何か?』と改めて考える機会となり、かなり楽しんで仕事ができました」(天野氏)
フロアごとに異なる機能を持たせることで社内の移動を促進し、交流の機会を増やす
それでは、株式会社オプトの新本社オフィスについて、詳しく紹介していこう。
最大の特徴は、フロアごとの位置づけを明確にしているところだ。これにより、従業員たちは仕事の内容によって上下階への移動を自然に行うようになり、出会いと交流の機会が生まれる。その結果、移転前のワンフロアに集約されていたとき以上にコミュニケーションは活性化されているという。
地下1階:サーバールーム、書庫、個人作業スペース
スペースの半分は業務上欠かせないコンピュータのマシンルームにあてたが、残りのスペースを有効活用するために設置されたのが、書類管理倉庫と集中作業用のシンキングルームである。
「前のオフィスでは狭い空間に書類が溢れていたため、移転に伴って大胆にペーパーレス化を進めました。それでもデータにできない紙の資料については、デスクまわりには置かず、地下にまとめて保管することで執務スペースをすっきりさせたのです」(山縣氏)
「集中作業用のブーススペースを10席ほど設けましたが、社内では『オプトの缶詰』と呼ばれ、企画などをまとめるときに重宝されています。もともと社員のアイデアから生まれたコーナーで、そういう提案を実現してしまうところがこの会社らしいと思いましたね」(岩田氏)
1階:パブリックゾーン

エントランスから続くスペースにガラス張りのミーティングコーナーを設けた。
「ここは簡単な打合せだけでなく、社外の人にも自由に使っていただけるコーナーとして設置しました。外からも見えるスペースだけに、人が集まることで活気をアピールできるのではないかと思っています」(山縣氏)

また、受付から奥に続くスペースに会議室を並べ、接客および社内の打合せに多用している。
「会議室の特徴は、パーテーションで区切ってあるため、すべて外すことで100人以上が収容できる広いスペースを実現できる点です。このため、社内の全体会議やセミナーなどにも利用できるフレキシブルな空間になりました」(黒川氏)
2~4階:執務ゾーン
2階が営業部門、3階が企画や制作担当のメディア部門、4階が間接部門とグループ会社と、セクションごとにフロア分けを行った。デスク配置は対向型の島を並べたユニバーサルプランだが、通常の縦配列ではなく横にしてあるのがデザイン上の工夫になる。
「窓からコアに続く縦配列の島を並べたレイアウトではどうしても上座と下座が生まれ、コミュニケーションが阻害されてしまいます。そこでデスクを横配列とすることで、オフィス内のヒエラルキーをできるだけ無くすようにしたのです」(天野氏)
しかも、机の配置を少しずつずらし、斜めの動線を導入するようにしている。
「これにより、オフィス内を歩いて移動するときに視線が動き、変化が感じられます」(天野氏)

なお座席については間接部門を除いて固定席とせず、部門内では自由に着席できるセミフリーアドレスを採用している。
「1人あたりのデスク面積は1200×600ミリで、スペースの関係から奥行きは少し狭くなっています。しかし、ほとんどの作業はノートパソコンで行っているので問題は生じていません。また向かいの席との間にパーテーションは一切無いのですが、これも『打合せをしながら仕事ができる』とかえって評判がいいくらい。こういうところは、まさにオプトという会社の個性の反映だと思いますね」(黒川氏)
共用コーナー

1階だけでなく、執務ゾーンの各フロアには様々なタイプのミーティングスペースや雑談コーナーなどが設置されているほか、4階にカフェスペースを置いて昼食や休憩、打合せなど多目的に利用している。
「カフェスペースは大手町の旧オフィスにもありました。神保町は飲食店が多いため、食事だけに使うなら必要ないかもしれませんが、会議室と異なる自由なコミュニケーションスペースとしてすでに社内では定着しており、利用率は非常に高いですね」(山縣氏)
新しい環境に柔軟に対応できる若い組織だから今後もオフィス改革を大胆に進めていきたい
移転を決めてから4カ月で新しいオフィスを構築する。今回のプロジェクトは山縣氏を中心とする社内チームやゲンスラーのスタッフにとってはまさに時間との戦いだったが、オプトの従業員たちにとっても急激な環境の変化は戸惑いにつながったはずだ。
「一番の違いといえば、書類だけでなく私物もデスク上に放置できなくなったことでしょうね。ペーパーレス化に伴い個人用のキャビネットをすべて無くし、外出や帰社するときにはノートパソコンも含めたすべての備品をロッカーにしまわなければなりません。そのほか、新しいオフィスの使用ルールを徹底するのが、移転プロジェクトにおける最も大切な作業の一つだったのです」(山縣氏)
しかし実際に新しいオフィスに移ってみると、大きなトラブルはなく、不満の声もほとんど聞かれなかったという。
「大胆なオフィス改革をしてもすぐに受け入れられるのは、やはりこの会社が若いからだと思いますね。若い人ほど環境の変化に柔軟に対応できるのですから、それだけ、新しいことに挑戦しやすい。個人的にも、うらやましい会社だと思いましたね」(岩田氏)
同じことは山縣氏も感じている。
「社員たちの関心はオフィスの外にもあるようで、『大手町に比べると、飲食店の単価が安いので、みんなが集まる機会が増えた』と喜んでいるほどです。そういう意味では、今回の移転は大成功だったのかもしれません。
もちろん、オフィス内部の環境整備はこれからも続け、彼らが充分に力を発揮できるようにしていくつもりです」

次の課題としては、今後、組織が拡大していったときの対応だが、今のところ、短期間で移転することは考えていないという。
「ある程度の増員は吸収できるように余裕を持ったレイアウトにしてありますが、それ以上の人数になったとしても、周辺への借り増しで対応できると思っています。今回、移転したビルは本社として相応しいグレードと機能を持っており、しかも立地的にも満足度が高い。それだけに、私たちの会社の一時代をつくる重要な拠点になると信じています」(山縣氏)

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