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株式会社ファーストリテイリング 東京本部

「緩やかな」グループアドレスがマネジメントを強くし、情報共有のスピードをあげ、チーム力を最大化する

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プロジェクト概要

  • 株式会社ファーストリテイリング
    植木 俊行氏
    人事総務部長
    CS推進部長
  • 株式会社CWファシリティソリューション
    伊澤 成人氏
    代表取締役社長
  • 株式会社CWファシリティソリューション
    加藤 泰子氏
    コンサルティング部
    チーフコンサルタント

ユニクロのブランドでお馴染みの株式会社ファーストリテイリングは、2010年3月、港区六本木のミッドタウン・タワーの28~34階に東京本部を移転した。ファーストリテイリングといえば、本誌『オフィスマーケット』でも2006年9月号で千代田区九段北にあったオフィスを紹介したことがある(株式会社ユニクロ東京本部オフィスとして掲載)。フリーアドレスを進歩させた選択式ワークスペースや、商品を身近に感じる大胆なフロア構成などの先進的な取り組みは大きな話題になった。

しかし旧オフィスの開設から4年経ち、新たな経営課題が浮上してくる。さらなる情報共有、さらなるスピード化、そしてさらなるマネジメントの強化といった組織の理想を実現するには、オフィスのリニューアルが大きな力となる。新たに完成したオフィスは「緩やかなグループアドレス」という斬新なレイアウトを中心に、人を育てるためのさまざまな工夫がなされ、まさに4年間の進歩を感じさせるものだ。

先進オフィス事例研究 はやわかりメモ
オフィス戦略は経営課題の翻訳
オフィスをリニューアルするには、その時々の経営課題に合わせた具体的な方向性を決めていく「翻訳」作業が欠かせない。例えば情報共有や可視化、ワークスタイルの多様化といった言葉も汎用的に考えるのではなく、今、何が不足し、何を実現すべきか、精密なプランニングをすることが大きな成果につながる。
徹底したスピード化の追求
ファーストリテイリングでは、「会議は罪悪」と経営トップが言いきる。情報共有や協同行動のレベルを上げながら同時に業務のスピードアップを図るため、テレビ会議システムを大幅に増やした。単に「場」を増やすだけではなく、目的と手段と効果をしっかりつなげることが重要だ。
変化と前進の繰り返しが進化
オフィス戦略は事業構造や組織の変化によって常に変わってくる。したがって以前のオフィスで実現したことをそのまま継承するのではなく、メリットとデメリットを冷静に検討し、変化と前進を繰り返しながらレベルを高めていくべき。
フリーアドレスからグループアドレスへ
新オフィスではマネジメントの強化とチーム力の最大化を目指し、部署ごとに座席を自由に決める緩やかなグループアドレスを採用。

以前のオフィスの長所と短所を分析し新しい経営課題に合わせて進化させる

六本木のミッドタウン・タワー内に誕生した株式会社ファーストリテイリングの東京本部オフィスを紹介するには、移転前のオフィスについても触れておかなければならない。2006年3月、九段下交差点に面した北の丸スクエアに開設された旧東京本部は、当時、さまざまな革新的な取り組みにより、「経営戦略とオフィス戦略をうまく融合させたケース」として話題になった。概要を簡単にまとめておくと、次のようなものだ。

単なるフリーアドレスではなく選択式ワークスペースへ

固定席ではなく業務内容に合わせて最適な「場」を社員が選ぶオフィスにすることで、同時に各業務の重要度を考えさせる。多様なミーティングスペースを用意し、思いついたとき、タイムラグなくプロジェクトが始められるオフィス環境を構築した。

あらゆる部分で「可視化」を実現

デザイナーやパタンナーの執務室には商品やサンプルがオープンに置かれ、「現場・現物・現実」が見える状態で開発業務を行えるようにした。また全面ガラス張りの会議室などの多用で違う部門の人の仕事まで見えるようにして情報の共有化を促した。

そしてもう一つ、移転前のオフィスを紹介した本誌の記事では、このような文章が加えられている。

事業や組織に合わせた継続的なオフィス戦略を

成長を前提とする企業にとって、事業構造や組織の改変、人員増は日常茶飯事。フリーアドレスによってスペースの柔軟性が生まれ運用は簡便になるが、そこで満足せず次のオフィス戦略を考えていく姿勢も大切だ。

「あれから4年の間に事業構造や内容に変化があり、次の成長に向けての経営課題も明確になってきました。したがって、さらに進化した形のオフィスにしようというのが、今回の移転の最大の目的です」

こう語るのは、現在、株式会社ファーストリテイリングで人事総務部長を務めている植木俊行氏だ。また取材には、前回と今回の2度の移転プロジェクトでコンサルティングを任された株式会社CWファシリティソリューションの伊澤成人氏加藤泰子氏に同席していただいている。

「移転プロジェクトは、昨年7月に私どもの代表取締役会長兼社長である柳井 正から直接伝えられた経営上の課題をオフィス戦略に落とし込んでいくところから始まりました。当然、オフィスについての専門知識が必要のため、伊澤さんたちにも参加していただき、今後のオフィスの方向性について話し合ったのです」(植木氏)

そのとき、柳井会長が伝えた言葉を伊澤氏が整理したのが次のメモだ。

全部のことを全員が知っている
  • 協同行動
  • 情報共有
スピードが足りない(業務品質のさらなる向上へ)
  • 仕事の効率をあげる習慣づけ
  • 残業は罪悪
  • 会議は仕事ではなく「結論を出す」「実行する」が本当の仕事
マネジメント層の強化
  • 部下の成長を支援する
  • マネジメント層同士の情報共有、コミュニケーションをもっと密に!
部署を越えたチームワーク
  • 仕事はチームでするもの
  • 組織だけで完結しているのではない(単独で完全な組織などない)

「柳井さんの言葉をもとにまとめたものですが、経営トップの思いと現在のファーストリテイリングの課題が完結に表されていると考え、ここから具体的なオフィスの方向性を探っていったのです」(伊澤氏)

例えば「全部のことを全員が知っている」という中の“全部”と“全員”は正確には何を示しているのか……といったところから、新オフィスのコンセプトづくりが始まる。
「当然、社内のすべての情報を社内の全員が知るという意味ではありません。どんな情報を誰が共有するのか考え、それまでのオフィスの長所と短所を冷静に分析し、柳井さんの言葉を解きほぐしていく。そういう作業を一つひとつ繰り返すことで徐々に新オフィスの考え方を整理し、以下のオフィスコンセプトに到達しました」(伊澤氏)

1.マネジメントを通じた教育と社員の自律的成長への支援
  • 基礎的教育(原理原則、知識、知恵)の徹底
  • 基礎的教育を超えた「+α」がイノベーションエンジンとなる本部オフィス
2.マネジメント層の働き方の変革
  • 情報とコミュニケーションが重要
  • 現場と経営の両立

社員の自律と各自の選択からチーム(組織)としての選択へ

検討プロセスを通して、植木氏、伊澤氏、加藤氏たちが非常に重く受け止めたのが、「スピードが足りない」という言葉だった。

「ファーストリテイリングは元々意志決定までのスピードがとても速く、日本企業の中でも有数の1社だと思います。また九段下のオフィスは選択式ワークスペースやさまざまな可視化への工夫によって、以前に比べると確実に経営のスピードアップにつながっていたはずです。しかし今後の経営課題としてもっと高いレベルのスピードが求められている。そうなるとさらに大胆な発想をしなければなりません」(伊澤氏)

「旧来の常識」が通用しない会社であることは、植木氏自身が常に感じている。
「最近のオフィスでは会議室をできるだけ増やすことが多いようですが、柳井に言わせれば会議は罪悪なのです。なぜなら議論をしている間は、まだ結論に到達していないのですから、経営的には無駄な時間なのですね。もちろん実際の業務には会議が欠かせませんが、新しい経営課題に応えていくにはオフィスも『他社並み』ではだめなのです」(植木氏)

「柳井さんの思いや経営課題をオフィス戦略に翻訳する過程で、まず検討したのは、前のオフィスで成功した選択式ワークスペースをどう進化させるのか、あるいは思い切って廃止するかでした」(伊澤氏)

「九段下のオフィスで導入された選択式ワークスペースとは簡単にいえば『省スペースを目的としないフリーアドレス』です。社員たちは業務の内容や目的に合わせて自律的に場所を変えることができ、同時に業務の重要度、優先度の見直しを行ないました。この『機能をレイアウトしたオフィス』は、その後多くの企業に広まっていきましたが、ファーストリテイリングではさらに次の経営戦略を展開していくにあたり、もっと違うワークスタイルを求めるようになったのです」(伊澤氏)

次の経営戦略の中心になってくるのが、海外進出だ。
「今後の成長において海外の市場開拓が最重要です。そのために企業理念や哲学、業務に必要な知識や知恵に加え、リーダーシップ、問題発見力、解決力の発揮、さらには経営者意識を持った社員の育成が急務となりました。日常の仕事を通して上司が部下をしっかりとマネジメントしながら教育していくことが、社員の自律性よりも重要となり、選択式ワークスペースがベストではなくなったのです」(植木氏)

そのような考えから検討を重ね、最終的にまとまったデスクレイアウトのプランが「緩やかなグループアドレス」と呼べるものだった。
「使い方は組織(部署)ごとに任せます。与えられたゾーン内では自由に移動して構いませんし、上司が必要と考えれば座る席を指定する。つまり、マネジメントや部下の成長を支援しやすいスタイルを実現していくというものです」(植木氏)

この方針を支援するため、具体的なレイアウトも多様な働く場を実現するものになっている。
「最近は島型デスクレイアウトによるユニバーサルプランが多いですが、それでは座るスタイルがみんな同じになってしまいます。そこで、整然と並んだ4人席、自由に接続できる台形のデスク、カウンター席、ミーティングスペースなどを組みあわせた『自由に変化されられる』レイアウトにしたのです」(加藤氏)

フロア全体を見回すと、センターのキャスター付台形テーブルが目に付く。1人席から6人席ぐらいまで自由に構成できることで、社員たちはプロジェクトや業務スタイルに合わせてレイアウトを変えていける。
「もともと動きの多い会社なので、このテーブルは正解でしたね。前のオフィスを見て最初に気づいたのは、この会社では他の人の席に行ってその場で打ち合せを始める社員が非常に多いということです。島型のレイアウトではその場での打ち合せがやりにくくなります。その点、こういうオフィスであれば、縦横斜めとどこにでも移動して、すぐに情報交換ができるのです」(加藤氏)

そして当初の目的であるマネジメントの強化とそれによる教育は、確実に成果を上げはじめているという。
「上司が育成したい部下を近くの席に置くことでみっちり指導できますし、逆に仕事を任せているときは自由に席を選ばすこともできる。緩いグループアドレスは目的に合った場をつくりやすいオフィススタイルなのです」(植木氏)

植木氏自身、新オフィスに移ってから、部署の内外に関わらずコミュニケーションの時間、特に隣の部署の部長とマネジメントや仕事、たわいのない話題等も含めて確実に増えているという。


33階エントランス全景。